誰もが名前くらいは聞いたことがあるだろうレジェンド的なSF映画の名作だ。物語、特に結末は難解で、何を意味するのか公開当時から議論百出、様々な解釈が出された。でも、この映画は百の議論よりも、映像体験としての素晴らしさを味わうべき作品だ。
あまりに有名だから、詳しくは触れないが、猿人の投げた骨が宇宙船へと変わり、「美しき青きドナウ」のワルツをバックに、滑るように宇宙を移動するシーンや、リアルな月面着陸シーン、そして木星に向かう有人飛行船の船内設備のシーンなどなど。これが50年近く前に作られた映画だとは信じられないくらいの素晴らしさだ。
それまで、吊り下げたワイヤーがちらちら見えるような、そんな特撮映画しか見たことのなかった僕が、初めて劇場でこの映画を見たときの驚きがどんなだったか、わかってもらえるだろうか。
しかも、この映画が公開されたのは実際にアポロ11号が月に着陸する1年以上前なのだ。 現在のコンピューターグラフィックスにも見劣りしないこの映像が1968年に作られたものだということを、きちんと把握した上で見て欲しい。
また、最近よくテーマにされる、人工知能AIの反逆を早々と描いてみせた作品でもある。ハル“HAL” というコンピューターと乗組員の、船の支配権を奪い合うやりとりは緊迫したシーンであり、この映画の見せ場のひとつだ。そして、この機械と人間の会話は、映画史上有名なセリフでもある。
“Open the pod bay doors,HAL”
“I'm sorry, Dave, I'm afraid I
can't do that.”
「進入口を開けろ、ハル」
「申し訳ありません、デイブ。ご期待に添えなくて残念です」
といったところだろう。
字幕ではハルの答えは「それはできません」だけだったが、
ちゃんと“I'm
afraid”を使って、丁寧な応対をしているだけに、英語がわかると、余計
にコンピューターの冷たさが伝わってくるような気がする。
なお、原題は“2001:a space odyssey”で、「長い航海」の意味のオデッセイが使われている。原作は、その後「2010:」、「2061:」、「3001:」まで書かれ、そのうち「2010:」も映画化されている。
2010年になっても、現実はこの作品シリーズの内容に追いつけなかったから、次に追いつくチャンスは2061年ということになる。