ゲティ家の身代金
 巨匠リドリー・スコットが実話を基に製作・監督した作品だが、往年の美男俳優クリストファー・プラマーが無慈悲な大富豪を演じてその金の亡者ぶりで大いに魅せてくれる。アカデミー助演男優賞候補になったのも納得できる。
 原題は“All the money in the world”だ。直訳では「世の中のお金全部」だが、自然な訳としては「有り余るほどの金」「巨万の富」「唸るほどの金」あたりだろう。実際、映画の中で弁護士が「時間ならたっぷりある」という意味で“All the time in the world”と言っていた。“Time”のところを色々変えて応用できそうだ。
 そのほか、お金や財産にまつわる名言、金言(らしきもの)がたくさん出てくる。世界中の富を独占しているような金持ちながら、孫の身代金をびた一文払おうとしない超倹約家であるゲティの口から出たものだが、いづれもなかなか示唆に富んでいて参考になる。例えばこうだ。
 “But if you can count your money, you’re not a billionaire.” (「財産を数えられるうちは億万長者じゃないね」/拙訳)
 “Everything has a price. The great struggle in life is coming to grips with what that price is.” (「すべてに値段がある。人生で最も大変なのは、その値段を見極めなきゃならんことだ」/拙訳)
 “When a man becomes wealthy, ・・・・・・An abyss opens up. Well, I’ve watched that abyss. I’ve watched it ruin men, marriages. But most of all, it ruins the children.” (「ひとが金持ちになると・・・・・・底なしの穴が開く。わしは、そんな穴を見てきた。それが人を、結婚を破滅させるのもな。そして何よりも子ども達を駄目にする」/拙訳)
 最後のセリフは字幕では「淵」と訳されていたが、字数に限りがあるとは云え、人を堕落させるお金の魔力のおどろどろしさが出なくなっていて残念至極。
 ほかに今回この映画を見ていて初めて知ったのが「犬の毛」だ。”a hair of the dog”と言う表現を二日酔いの父親がつぶやき、「迎え酒」の意味だと説明される。辞書を引いたら、犬に噛まれたとき、その犬の毛を傷口に付けると傷が治るという迷信からきているそうだ。
 英語の面では映画の舞台がほとんどイタリアで、誘拐犯もイタリア語訛りのたどたどしい英語で脅迫電話を掛けてきたりするから、比較的ヒヤリングしやすい。
 そんな犯人と被害者の青年やその母親とのやり取りを聞いていると、実話をベースとした物語だから結末はわかっていても、結構手に汗を握ってしまう。そんな演出ができるリドリー・スコット、まだまだ老いてはいないと感心させられた。