犯罪や事故現場の動画をテレビ局に売り込むカメラマンたちの内幕、生態を描いた作品だが、むしろ悪漢を主人公にしたピカレスク映画に近い。ちなみに”Picaresque”は元々スペイン語で悪漢の意味、英語では”Villain”だ。でも、期待以上の面白さだった。
カメラマンたちは夜な夜な警察無線を傍受しながら街を徘徊し、事件や事故の発生を掴むや否やライバル業者よりも少しでも早く現場に到着して決定的シーンを撮影しようと車を飛ばす。夜、うろうろするから、”Nightcrawler”。”Crawl”は水泳のクロールと同じで、這うことやのろのろ進む意味があるが、そういえば、インターネットでWebを回ってデータを集めるプログラムも”Crawler”だ。
主人公はモラルの欠如した学歴のない元こそ泥だが、頭だけは切れて、インターネットで身に付けた哲学や経営学の知識を振りかざし、周りの人間を煙に巻くから始末が悪い。(台詞の中では「”On line”で学んだ」と言っている。こういう場合は「オンライン」でいいようだ。)だが、オンラインでは表面の知識しか得られない。モラルや良識は教えられない。
この映画では、ニュース番組の英語がたくさん出てくる。中でもなるほどと思ったのが映画のコアでもある”Graphic Image”だ。「刺激的な映像」と訳されていたが、改めて”Graphic”を辞書で調べると「生々しい」とか「あからさまな」とかがあった。元々は「図」や「写実的」であったが、テレビで婉曲表現として使われるうちに辞書にも載るようになったのじゃないだろうか。
ほかに、よく目にする”Breaking News”は「ニュース速報」だし、「モザイクをかける」は”Blur out”のようだ。あと、フェイド・アウトの反対はフェード・イン以外に”Fade up”とも言うらしい。
映画は、一線を越えた主人公が自分の欲望のままに周囲を操り、やがて信じられない映像をものにする。サイコパスとしか思えない、その行動だが、見ていて徹底ぶりにある種の爽快感を感じたのは、わたしもサイコパスの傾向があるってことか? そういう意味では怖い映画だ。